国立西洋美術館で開催中の『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』に行く前に、知っておくべき知識や今回の注目作品をご紹介します。
はじめに
展覧会概要
会期:2025年10月25日[土]-2026年2月15日[日]
会場:国立西洋美術館

オルセー美術館とは
フランスのパリにあるオルセー美術館は、印象派の画家の作品が多く所蔵されていることで有名です。
パリといえばルーヴル美術館を思い浮かべる方が多いと思いますが、1800年以前の作品はルーヴル美術館でそれ以降の1914年までの作品はオルセー美術館という役割分担があります。
そんなオルセー美術館は2025年から2027年にかけて大規模な再開発工事を実施中。そのため多くの作品が貸し出されており、今回の展覧会開催のきっかけとなりました。

そもそも印象派とは?
印象派は19世紀後半のフランスで生まれた新しい絵画のスタイルです。
当時の絵画の世界では、聖書や神話をもとに描かれた「歴史画」が最も高く評価され、国が開くサロン(公募展)で主流を占めていました。その中で印象派の画家たちはあえて当時の主流を無視し、日常の風景や人々の生活を題材に光の移ろいや色の変化を追求しました。
印象派の特徴
印象派の画家たちは、日常の風景や人々の生活を題材にしました。
それまでの絵画はアトリエの中で完成させるのが一般的でしたが、印象派の画家たちは絵具とキャンバスを持って戸外で制作を行いました。限られた時間で仕上げるため、細部を丁寧に描写するよりも素早い筆致で大胆な絵具使いが特徴です。
彼らが用いたのが「筆触分割」という技法です。絵具をまぜて色を表現するのではなく、隣り合う色を影響させあうことで表現します。この技法の最大のメリットは絵の具を混ぜ合わせないので、色が濁らずに明るい色彩のまま扱うことができることです。これによって陽の光や水面、さらには空気感までを表現するに至りました。


印象派展の存在
落選者の集まりで開催されたのが、「印象派展」です。
印象派を語る上で欠かせないのが、「印象派展」の存在です。
19世紀後半のフランスでは、国が主催するサロン(公募展)が画家たちにとって最大の発表の場でした。そこでは聖書や神話を題材にした歴史画が高く評価され、伝統的な技法を守ることが芸術の理想とされていました。

しかし、印象派の画家たちはそうした価値観の中では受け入れられず、サロンで落選を重ねることになります。居場所を失った画家たちは、自らの手で新しい発表の場をつくろうと立ち上がりました。それがのちに「印象派展」と呼ばれる展覧会です。
展示された作品の斬新さは当時の人々には理解されず、痛烈な批判を受けます。全8回開催された「印象派展」を経て、徐々に大衆へと受け入れられるようになったのです。
ちなみに「印象派」という言葉はクロード・モネ 《印象 日の出》をみた批評家(ルイ・ルロワ)が「印象を描いた作品」と揶揄したことが発端だとされています(諸説あります)。
印象派―室内をめぐる物語 について
今回の展覧会では、あえて“室内”の作品を集めています。
当時のパリは都市空間の発達とともに、人々の生活が大きく変わりつつありました。鉄道の開通や街路の整備によって街は明るく開かれ、同時に人々の暮らしの中心が家族や友人と過ごす「室内」へと移っていったのです。
現代の生活の大半が屋内で過ごされることは疑うべくもないのに、なぜ庭や、海辺や、街路の、外光を表現することが必要なのか
詩人 ステファヌ・マラルメ(1842-1898)
印象派の画家たちは、変化し続ける光を室内画の中にも取り入れようとしました。窓から差し込む外光は人々の生活空間の中へと入りこみ、室内の光のやわらかさや人の気配を繊細なタッチで描きました。
作品紹介
12.《家族の肖像(ベレッリ家)》—エドガー・ドガ

エドガー・ドガは印象派展(全8回)のうち第7回以外に参加した印象派の画家です。ドガと言えばバレエを扱った作品を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
本作はドガの叔母一家ベレッリ家を描いた作品です。
右に描かれている男性は、活動家であり叔母の夫でもあるジェンナーロ。ここで書かれた家はジェンナーロが政治活動の結果、亡命を余儀なくされた際の滞在先でした。左にいる叔母ローラは父の葬儀に出席した帰りで、喪服を身に着けています。左と中央でエプロンを着ているのが娘ジュリアとジョヴァンナです。
全員が表情を消して視線を合わせようとしないため、張り詰めた空気が漂っています。慣れない場所での生活と身内の死が重なり、ジェンナーロとローラの間に不和があったことを物語っています。ドガはこの家族と8カ月の間、生活を共にしました。彼の鋭い人間観察力が存分に発揮された作品です。
14.《アパルトマンの一隅》—クロード・モネ

クロード・モネは印象派を代表する画家です。《睡蓮》や《摘みわら》など、ひとつのテーマを様々な季節、天候で描く連作が有名な画家ですが、画家人生の前半には人物を題材とした作品も多く残しています。
本作では描かれているのはモネの家族です。手前にたたずんでいる男の子は息子のジャン。左奥に座っているのが妻カミーユです。二人は有名な《散歩、日傘をさす女性》にも登場しました。
手前を明るく、奥を暗くすることで、画面に奥行きを生み出しています。草木の部分には印象派らしい筆触分割が用いられ、光を感じさせる明るさが表現されています。一方で、奥に向かうにつれて暗い絵具を重ねることで明るい手前との対比が際立ち、空間の広がりがより強調されています。
ちなみにモネ自身はこの作品をベランダから描いています。《刺繍をするモネ夫人》という作品では、ジャンの位置から見た景色が描かれています。
29.《ピアノを弾く少女たち》—ピエール=オーギュスト・ルノワール
ルノワールはモネとともに印象派を代表する画家です。
中期にはラファエロの影響を受け、輪郭線を強調した古典主義的な画風へと移行しましたが、後期には再び柔らかな筆づかいを取り戻し、独自の温かみあふれる作品を多く手がけました。
本作はその後期にあたる時期に描かれた作品で、フランス政府から依頼を受けて描かれた作品です。同様の構図で油彩画を5点、パステル画1点を描き、現在はオルセー美術館にある本作がフランス政府の買い上げになりました。なおオランジュリー美術館に所蔵されている佳作が2025年に来日していました。
印象派らしい筆触分割を用いながらも、輪郭線をはっきりと表現するルノワールらしいタッチです。ブロンドの髪や白いドレスに緑色を使用しており、大胆な光の表現が特徴の作品です。

38.《足治療師》—エドガー・ドガ

かつては、裕福なブルジョワの娘が爪の手入れをしている場面だと考えられていました。しかし近年の研究では、実際には巻き爪の治療を受けている様子を描いたものではないかとされています。
左奥に洗面台、右下には体を洗うためのたらいがあり、ここが少女のプライベートな空間であることがわかります。
物憂げな表情の少女を包み込むように、真っ白なシーツがひときわ明るく輝いて見えます。
44.《テラスにて》—ベルト・モリゾ

本作は東京富士美術館に所蔵されている作品で、ベルト・モリゾという女性画家の作品です。
本作品は主に3つの画面構成で成り立っています。前景にはテラス席と右側には女性が座っています。画面上部右側に描かれた海ではヨット遊びに興じる人々。左側には緩やかな傾斜の丘があります。テラス席の柵にはスペードの形の穴が無数に空けられており、その奥にある丘が見えることで遠近感を演出しています。
まとめ
『印象派―室内をめぐる物語』は、光と色彩の芸術といわれる印象派の、もうひとつの側面を見せてくれる展覧会です。
戸外の風景だけでなく、家庭や私的な空間での人々の姿を通して、彼らがどのように“光”を見つめていたのかを知ることができます。
展覧会は2026年2月15日まで、上野・国立西洋美術館で開催されています。オルセー美術館の名作たちが一堂に会する貴重な機会です。
日常に差し込む“光”を描いた印象派の世界を、ぜひご自身の目で体感してみてください。
オルセー美術館ですが、今後も日本で開催予定の展覧会があります。
是非こちらも確認ください。
モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ
会期:2026年2月7日(土)~2026年5月24日(日)
会場:アーティゾン美術館

オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び
会期:2026年11月14日(土)~2027年3月28日(日)
会場:東京都美術館

